姐御


 国道161号に面したパチンコ屋に車を入れると、そのままくるっとガレージを一周してまた国道へ出る。カモフラージュ。

 そして今度は、パチンコ屋の隣にあるガレージ、すなわち鎌倉御殿のそれに車を入れる。あたかもパチンコに買ったから衝動的にソープランドへ行くんですよっ的な行動で車を店前へ乗り付けるのだ。若輩のオレにはソープへ行く大義名分みたいなのが必要で、この一連の謎の行動は十分大義に見えているはずだと自分では思っている。今日は2回目の鎌倉御殿、雄琴での通算3回目の入浴だ。

 車が停まりきらないうちにフロントボーイの見栄晴が寄ってきた。

「予算どれくらい? 今日はパチンコ買ったの?」

「ええ、まあ。予算は2万から2万5千くらい」

「うちはね、中級店なんだけどね。じゃあね、ちょっと値引きするから。だからな、お兄ちゃん、25,000円は自分で出しや」

 前はもうちょい安かった訳だが、「前は――」と、ここで言うのも気が引けるので黙っておいた。

 前回の要領で待合室に誘導されると、にび色の大きなソファに座らされ、これは予想してなかったが2名のパネルを見せられた。1名はミディアムの黒髪を小綺麗にまとめた、若干ふくよか風体の優しそうな顔の女。もう一人は、茶色のワンレンをファサーっとしてるヴェルファーレで扇子持って踊ってた系の姉御風味の女。年齢は両名とも不明。恐らく第4市場に分類される商品と思われる。

 ふーうん、どうするか。しばし考える。

「こちらはちょっとキツ目です」

 室内接客担当と思わしきボーイは、姉御を指さして言う。オマエにはまだ早いとでも言いたそうなボーイの口ぶりにムッときたオレは、この人でいいですと姉御を指名した。

 ボーイが下がってすぐに案内となった。

「水明が御案内致します!」

 例の学芸会の呼び出しが終わるか終わらないうちにカーテンが開かれ、本日のお相手、水明さんが姿を現した。彫りの深い顔に艶のある真っすぐの茶色い髪。こちらを見て微笑している。おお、パネル通りの姐御やないか。

 おしっこの有無を聞かれながら赤い絨毯を並んで歩き、個室に入る。こないだの山紫さんの部屋と間取りは同じだが、雰囲気は随分違う。いったいどういう基準で各部屋が調度されているのか・・・・・・。

「お兄さんはこの店初めて?」

 姐御は酒焼けしたガラガラ声。「お兄さんは、お兄さんは」を連呼される。オレも真似して「お姉さんは〜」と、言ってみたがウケなかった。いや、ウケなかったというか気付いてないな、これは。

 姐御は、容姿に合ってちゃきちゃき仕事を進めていくタイプの様で、さっそく服を脱いでプレイが始まった。刺青でもあるのかとドキドキしたが、しっとり綺麗な肌をしていた。

 ことさらエロい雰囲気を作ることは無く、自然な流れで椅子をして、入浴、潜望鏡をしてくれる。テクニックは山紫さんより劣るような感じだが、それでも自分にとっては凄いプレイに違いなかった。チンチンの具合がよろしくなってきたあたりで、マットをすることになった。

 姐御は長い茶色の髪を頭の上でグルグルっと巨大な団子にして串を刺すと、うつぶせのオレに乗っかってきた。ははあ、こうやって髪の毛を上げるンか。ローション付いたら大変だもんな。体験2回目のマットなので、ある程度周りを見る余裕がある。あ、野麦峠入れたら3回目か。

 滑るマットの上で様々な技が繰り出され、オレは無事に発射した。ローションを落として再び風呂に入る。気持ちのいい射精をした解放感からか、ボーっと長風呂してしまう。マットの清掃を終えた姐御に「そろそろ上がったら?」と言われて慌てて出ることにした。

 ところが。

 立ち上がって湯船を出て、部屋の真ん中の仕切りからベッドルームへ入ったと思ったら眩暈がきた。直ぐにオレの異変に気付いた姐御は「あ、眩暈した? ここにに寝て。いいからこの上にすぐ寝ころんで」と言って、床にバスタオルを広げた。濡れた体のまま横になると、姐御が冷蔵庫からツメシボを出してきて額に乗せる。

 恥ずかしい。顔から火が出る。これは前代未聞だ。ソープに来て風呂で上せて横になるなんて・・・・・・。

 切腹前のサムライの様な気分になったが、姐御はそんなオレの心を見透かしたように、有無を言わせぬ言動でオレの動揺する心をガッチリ抑えて復活まで誘導してくれた。「こうやって寝てりゃすぐに治るから」って。ずいぶん手慣れたものだ。聞けばよくあることらしい。特に1発抜いてからの入浴は上せるオヤジがいて危険なのだとか。

 回復すると2回戦をするか聞かれたが、特にしたい気分では無かったので止めておく。まだ時間が少し残っているようで、お茶を出してもらい、裸のままトークタイムへと移行した。

 姉御はよく喋る。タバコをぷかぷかしながら。

「こないだ来た若い男の子はさあ、女の子とセックスするのに命かけてるんだって。100人とするのを目指してるって。でも若い子の方がいいよね、おっさんはさあ、セックス前に気合入れてよく焼き肉食べてくるのよ。もうニンニク臭くて倒れそうでさあ」

 オレも青い鳥の口臭骸骨ババアにキスされることを想像して、うんうん、と納得した。

「酒飲んできていかねーくせに金もったいないから回数したがるんだよ、オッサンは。いかねーどころか立たねーしさあ。立たないのをアタシのせいにされてもなあ? ほんと」

 キモ客や上客の話でいろいろ盛り上がる。

 そんな話をしていると、何やらドアの向こうで声が聞こえる。なんだろうと二人でドアの方を注視した次の瞬間、ドアが開けられた。そこには一人の女が立っている。

 3秒ののち「・・・・・・すいません」と言ってドアが閉められた。

 いっしゅん、二人であっけにとられ、8秒は空気が固まったように思う。9秒後に、

「ビビった・・・・・・」

 と、ようやく姐御がひとこと放った。

 さすがに姐御もこんな出来事は初めての様で、あっけにとられていたが、やがて頭が回り始めたのか、次に取る行動を考えているようだった。

 そして、内線電話を取るとオレに聞こえないように2,3話し、くるっと背中を向けた。低い声で受話器の向こうの誰かに何か言っている。やがて受話器を戻すとこちらを向いて、「ホント御免なさいね、ちゃんと言っとくからね」と笑顔で言ったが、それは明らかにひきつっていた。

 それからはもう、会話が続かない。とうとう姉御は我慢できなくなったようで、すっと立ち上がると、「ちょっと待っててね」とバスタオルを身体に巻いて部屋を出て行った。

 一人で部屋に残される。耳を澄ますが何も聞こえない。裸のままで1階までいったんだろうな。

 女が間違えたのか、ボーイが間違えたのか。タダでは済んでないだろうことはソープ初心者のオレでもなんとなく想像できた。部屋を出ていくときの姉御の顔がもう、半端なかったから。

 セックス終わってからでよかった。とりあえずやることやったし。まあ、とんだハプニングが2回もあったが、楽しかった。ソープってやっぱプレイの奥が深いわ。オレもとりあえず100人と寝ることを目指そう。これからちゃんと寝た人数記録しとかないとな。



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