ナンバーの女


 ステンドグラスのある玄関から待合室に通される。店内は赤を基調とした空間で、少しばかり古びている。赤いビロード風味のソファを勧められた。やれやれやっとセックスの相手が決まった。しかも遂にやってきた奥地の店だ。しかし、落ち着く暇なく座ったと思ったら直ぐに案内になった。

 待合室からプレイルームへ続く赤い絨毯の一本道で、ボーイ二人が左右に分かれて土下座をしている。その先のカーテンの向こう側に女が立っているようだ。ははあ、鎌倉御殿みたいな演出だな。

 オレが立ち上がって赤いカーペットの道を進もうとしたその時、土下座中の右のボーイが叫んだ。

「頑張って。・・・・・・いってらっしゃいませぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

 一瞬ギョッとする。つづけてこんどは左のボーイが叫ぶ。

「ごゆっっっっっくりと。・・・・・・お楽しみくださいませぇ〜〜〜〜〜〜〜」

 待ってましたとばかりに左右からそれぞれ大声で叫ばれるのだ。

 これはいわゆるソープランド独特の送辞(?)なんだが、この「独特」を文字で表すと、上記のようになる。タメと伸ばしが特徴的なのだ。これを左右「あ・うん」の呼吸で合わせるのだ。〜〜〜〜部分は、半笑いにするような感じ。悪代官に黄金色のお菓子を贈る桔梗屋みたいな感じとでも言おうか。店によっては「お楽しみくださいませ〜〜〜〜」部分を全員で唱和するところもあるらしい。経営理念かよ。

 まあ、そんなことで進んだ先には赤いドレスを着た女が待っている。パネルとほぼ同じで、すこし肉付きのいい女。推定20代。確かにイイ女だが、見た目はナンバーワンって感じでもない。

 オレが突っ立っていると、女がにっこりして手を繋いできた。そのまま体を密着させながらゆっくり歩いてプレイルームへ。部屋の中も赤と金でカラーが統一されており、結構なスペースがある。ゆっくりできそうだ。

「今日はナンパに失敗したから来たの?」

 いきなり女に言われる。何処から来た、ここは初めてか、雄琴はよく来るのか・・・・・・いつものお約束のやり取りではなく。なんやそれ、そんなトーク初めてや。ヘルス時代にも経験ないで。

「え、そんなことないで」

 オレがちょっと戸惑いながら答える。

「ナンパとかするんでしょう? 今日はナンパ上手くいかなかったから来たのかなあって」

「えー、今日は最初から雄琴の予定だよ」

 オレは返事をする。その間に女の手はオレのシャツを脱がし始めている。

「おチンチン元気だね。今日は一杯しようね」

 早くも7分立ちになったチンコに口づけをしながら言われる。そのまま脱がされてオレが素っ裸になったら女もドレスを脱いだ。何カップだろう。巨乳だ。

 きっちり椅子をしてもらって風呂に入る。暫くいちゃついて、歯磨きをしていると女がマットの準備を始めた。

 マットは肉付きのいい女のほうが気持ちいい。前も後ろも柔らかいゴム毬でつつまれているようになる。推定40数度の暖かいローションと、37度の女の肉が非常に気持ち良いわけで。

 うつ伏で8の字滑りから逆さ洗い。タワシ洗いの流れでくぐり洗い。松葉崩しをして、バックドラゴンへ。技の合間合間にオレの手を取ってマンコに当ててくる。壷洗いだ。マンコをヌルヌルなぞって指入れすると、女が眉間にしわを寄せて感じる。これは感じているのか――。

 オレの足を取って足裏を乳に当ててくる。堅くなった乳首が足裏をくすぐって気持ちいい。指も一本づつ口に含んでくれる。仰向けにされた時には、もうチンコの発射準備は整って暴発寸前になっていた。なんとか一部の理性ある脳細胞がそれを抑えている。

 女が仰向けのオレの体に覆いかぶさってきた。まだ挿入しないようで、下腹部の肉でチンコを刺激し始めた。やばい。我慢できない。入れてと言おうか迷っているうちにチンコが暴発した。

 あっ。

 オレは女の腹でいってしまった。慌てて噴出を止めようとしたが、意に反して2回、3回とスペルマが尿道を駆け上がって大量に出た。

「あれ、もしかしていった?」

 気付いた女が動きを止める。

「・・・・・・いった」

「お腹で行かれると微妙な感じねえ。そんなに脂肪が気持ちよかったの。ありゃ、いっぱい出てるし」

 女は笑いながら言った。

 放心しながらローションとスペルマを流して体を拭いてもらう。

「おちんちんおっきいねえ」

「そうか?」

「おおっきいよ。普通より。大きくなった時が凄い」

 そのあと、女に2回戦に誘われる。ベッドで休んでるとキスをされて、フェラして手コキしてもらって上に乗られて。

 大きな声で喘ぐ女。オレがそろそろいくよっと言うと、あたしもと返される。

 気付いた。この女は感じていない。濡れていない。ヘルスでマンコを舐めまくってきたオレには解る。このマンコは潤っていない。クンニ王子を甘く見ちゃだめだぜ。

 きっと女は演技してるんだろう。どうしてそんなことに気付いたのか、考えたのか。しかし、つぎの瞬間には意図してそれを忘れた。そんなことを考えてはいけない。それがソープランドの遊び方の1つの要素のような気がした。だからそのまま、女を上に乗せてスペルマを発射した。女はいったとは言わなかったが、いったふりをしてくれた。

 行為後のシャワーをして、服を着たら、女が何やらペンを取り出して小さな紙に忙しく丸印を付けている。何かと思ったらそれを渡された。名刺だ。

「あたしでよかったらまた」

 お別れの口づけをして、きっかり80分後、退室する。

 帰りに待合室に再度通される。上がり部屋も待合室も一緒の様だ。向かい側には3人の客が座っている。たぶん一杯貯めてきてるんだろうな。野獣兄さんみたいな目になっとるよ。斜め側にも一人の男がいて、ボードを膝の上に乗せて何やら書いている。こっちはギラギラ感がなくて仏さんみたいな顔をしている。動き自体も緩慢と言うか、心に余裕があるのが見て取れる。

 仏さんみたいな顔の男はタンクが空になってるんだな。そして野獣みたいに挙動不審な3名はオーバーフロー寸前で鼻息が荒いわけだ。たしかにこうして並べてみると一目瞭然やな。ああ、きっとオレの顔も国宝級の阿弥陀如来になっとるんだろうなァ。

 人間観察していると、オレの元にもボーイがアンケート用紙をもってやってきた。いろいろ項目があって、「本日は何点でしょうか?」と点数を付けて締めくくるようになっている。オレは100点をつけた。その理由を書くところもあったので、「素晴らしい」と書いた。

 その後、アンケートをチェックされ、オレを入店させたボーイがやってきて、「100点ありがとうございます」と自信満々の顔で言った。

 ああ、100点だったよ。これが正しい恋愛系のソープランドだよ。きっと。




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