特攻する客引き


 次の雄琴こそは奥地を目指そうと思っていたが、なりゆきでゲート入ってすぐの店に入ることになった。そこでもバケモンが出てきた。1回どころか出スペルマ0で終わった。それから暫くして、次こそはと思って行った店もモンスターハウスだった。

 行く店行く店でモンスターが出てきて、確変絵柄であるにも関わらず1回で終わるバグも頻発し、雄琴全体がタケヤに買収されているんじゃないかと思えてきたころ、腹を決めて今度こそ本気で奥にある店へ挑戦することにした。あわよくば1周してやろうじゃないか。本当の桃源郷があるのか調べてやる

 生温かい風が吹くある日。昼から単車で雄琴へ向かう。

 雄琴へ行くには、JR湖西線で最寄の比叡山坂本駅まで行って店の送迎車を呼ぶか、駅からタクシーで行くか、最初からマイカーで行くかの3択となる。

 オレはまだ送迎車を呼んだことは無い。なんかちょっと怖いし、あれは老人が使うものだというイメージもある。タクシーを使うという選択肢も、遊びに行くのが運転手に100%バレるし、そもそもそんな余分な金があったら、ちょっとでもプレイ時間やクオリティに反映させたいではないか。だからこれまでのように車やバイクで行くことになるのだが、この場合は客引きに捕まることになる。

 京都木屋町のヘルスの客引きは総じて控えめで、まァあれは自主規制というか条例か何かがあるからだと思うのだが、雄琴にはそういうのは無いようだ。いや、あるのかも? 国道に出てきて客引きする奴は殆ど居ないからな。国道161号はトラックやらが凄いスピードで走っているので、そんなことしたらどうなるかわからん。だから禁止されているのではないか。

 国道161号線。滋賀県大津から福井県敦賀まで続く道だ。関西から北陸の方へ抜けるにはR8米原経由よりもこっちの方が早いし渋滞しない。だから名神高速を使わない長距離トラックたちはR161へ乗り込んでくるのだろう。雄琴ソープ街の前のR161をそのまま北の方向にいくと、やがてR8に繋がって北陸へ抜けられる。

 雄琴の客引き達は、大型トラックが驀進する国道では車の前に立ち塞がる事はしないが、ゲートをくぐるとその限りではない。

 ゲートの中の客引き合戦は半端なく、轢かれないスピードであれば、容赦なく車の前に飛び出してきて両手を広げて通せんぼをしてくる。これは決して誇張しているわけではなく、事実そうなのだ。

 ブレーキを踏まないと確実に轢いてしまうので、しかたなく停まると、ウインドウ越しに話かけてくるのだ。これはゲートの中に入るようになってから毎回されることなのでよく解っている。こいつら特攻ボーイのお陰でオレは奥地の店に未踏であるとも言えるのだ。

 そして今日。

 ゲートから4軒目より奥にある店は、まだ自分で意図して行ったことがない。だから今日こそは客引きを突破して奥を目指すのだ。

 いつものパチンコ屋にバイクを止めて、気合を入れて徒歩でゴールデンゲートを越えていくと、客引きがいるのが良く見える。客引き用の小屋みたいなのに入っているのだ。よっしゃー、まずはあいつから撃墜したるで。

 オレは気合を入れて歩を進め、まず最初の <江戸城> の前にいたボーイを適当にあしらう。オレの雄琴経験値は過去に遭遇したモンスター達との闘いのおかげで初級から中級くらいになっていたのだろう。 <クラブV> と <はなふさ> もあっさりやり過ごす。客引きは声をかけてくるのだが、オレが徒歩で堂々と入ってきたのでビビっているのかもしれない。あるいは変質者と思われているのか。で、次が <とけい台> だ。この店はシルクロードとゴールデンゲートの両方側に間口があるが、客引き一人がその両方を受け持っているようだ。すごいレーダーだな。レーダー+特攻とか最強じゃないか。

 オレがとけい台の守備範囲に侵入すると、スポーツ刈りの日本男児っぽいのがこちらをロックオンして声をかけてきた。

「入って行ってよ!」

「あ、今日は違います」

「今日は決まってるの!? 決まっててもいいから話だけさせてよ」

「いや・・・・・・」

「決まってないんだったら、止まって話をきいてよ。聞くだけだったら損しないでしょ!」

「えっと、幾らでしてくれるの?」

「50分イチゴーゴ!!」

 50分で1万5千5百円。イチマンゴセンゴヒャクエンなんて言わない。イチゴーゴ。

「でも、待つの嫌だから」

「じゃあ待ちがあるか聞いてくるからちょっと待ってて」

「いや、いいよ」

「お兄さんは待つのが嫌なんでしょ!だから待ちがあるか聞いてくるって言ってんだよ!!」

「いや、いいですよ」

「お客さん、言ってることおかしいよ!!」

「他も行ってみますから」

「だから他へ行くまえに、待ちがあるか聞いてくるって言ってるじゃん!! それから考えたらいいじゃん! なにかそれで損するの!? だからちょっとここで待ってて!!」

「だから、もういいですから」

「いいってなにが! 今聞いてくるからって言ってるじゃん!!! お客さんは待つのが嫌なんだろ!? だから待時間があるかどうか聞いてくるって言ってんだよ! その間待つのは20秒だよ! それが待てないとか、それお客さん言ってることおかしいよ!!!」

 こんなやり取りを繰り返し、最後には男はフンっと言って背中を向けてしまった。よし、突破だ。

 3分ばかりの客引きとの格闘戦の一部始終は、周りの店舗のフロントにばっちり見られている。さすがに次の <大坂城> では声を掛けられなかった。苦笑いされている。

 その先の店でも、「うちは違うよ。うちは」「どうですか?」なんて声をかけられるが、すべて突破して、奥の方までやってきた。よし、そろそろ店を決めるか。

 ここから道はカーブして左へ曲がる。そのコーナーのところには <令女プール> という店があり、ベストに蝶タイの客引きが手招きしている。オレがちょっと進路を変更して距離3mまで近づくと、この客引きは、こちらにゆっくり寄ってきて、ひそひそ声で言った。

「すごい女の子がいるの。写真見てから決めていいから」

 この意表を突いた提案にオレの足が止まった。客引きが続ける。

「こっち来て、今だから案内できるの」

「いや、まだ遊ぶか解らないですよ」

 警戒するオレの発言に動揺することなく、ボーイはさらに続けた。

「うん、まあ入って、ちゃんと写真見せるから」

「どんな女の子? いくら?」

「うん、まあ入って、はいって」

「写真とか見れるの?」

「まあ、入って」

 どうも相当に自信があるようだ。とりあえず入って写真を見せてもらおう。そして気に入らなかったら出てやる。こう心に決めて店に入ると、玄関口で出されたパネルは何と1枚だけ。

「え、これだけ?」

「この子はね、ナンバーワン」

 ボーイは顔色変えずに首を左右に振りながら言う。

「いつもは案内できないの。今なら案内できるの」

 こんな陳腐なトークに? しかし、オレと、とけい台のボーイのやりとりを遠目に見ていたはずだから、そんな子供騙しの手は使わないだろう。優れた商品を保有するからこそか?

 オレはこの提案にひどく興味を持ったので、ここで遊んでみることにした。

「で、料金的には幾らくらい?」

 ボーイから提示された金額は80分2万6千円だった。




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