それはごく普通のマンションなのだが、中に入ると風俗店しかない。その店は確か上の方の階にあったと思う。

僕が行ったのは藤子不二雄(A)に似た鼈甲風味のメガネと野暮ったいセーターを着用したおっさんが案内する店だ。早い時間に行けば割引券が有効になり、信じられないくらい安く遊べる店だった。当時はマンションの入り口で割引券を自由に取って行けるシステムになっていたので、僕は21時という時間帯にも関わらずそれを持って入店し、ただでさえ安い料金をさらに安くしてもらおうと思ったのだ。

入り口で対応した藤子(A)は、チケットを差し出した私を一瞥すると、「ああ、これはダメだ」と言い放った。

藤子不二雄(A)に似て無愛想で怖い人だな・・と、藤子不二雄に会った事もないのに心の中で呟き、でも怖かったので、「じゃあやっぱりやめます」と言う事も出来ず黙って従うことにした。21時に入店して、40分コース9000円が半額の4500円になるチケットを出して半額にしろというのだから、今から思えば藤子(A)の反応はすこぶる当然の反応と言える。

まあ、そんなやり取りの後、パイプ椅子に座って暫く待つと、僕の順番になった。薄暗いプレイルームに入ると、小柄な女が立っていた。髪の毛は短く清潔感があり、化粧は控え目。全体的な雰囲気はアパレルショップで働いてそうな感じの女で、歳は23。


とりあえずシャワーを浴びてフェラしてもらったが、これがとてつもなく下手糞だった。
きっと、フェラとかしたことなかったんだと思う。
いや、もしかしたら処女だったのかもしれない。

今ならフェラの仕方を教えたりするかもしれないけれど、そんな偉そうなことを年上の風俗嬢にしたら失礼にあたると思っていたので、黙って我慢して一生懸命下腹に力を入れ続けて射精した。


射精後の処理をしながら、女が躊躇いがちに聞いてきた。

「あのね、なんていうのか、普通に彼女とセックスするときも乳首とか舐めるの?」

「舐めるよ。だって気持ちいいから」

「そうなんだ」

やっと聞きたかったことが聞けたと言った感じで、女は納得した顔になり、それからは別の話題になった。

「ねえ、洋服好き?」

「うん」

「その赤いの可愛い。似合ってるね。あたしも洋服好き」

彼女はきっとマルエーか三越か名鉄に入っているアパレルショップで働いていて、先輩店員に負けないようにお洒落をするために一生懸命洋服を買い続けたところ、ショップの安い給料では洋服を買うお金が無くなって、でも洋服を買うのは止められなくて、やむを得ず風俗で働くことになったんだろう・・と、僕は想像した。でも店選びを間違って、こんな格安店でチンコをしゃぶるはめになったんだと、この風俗店の個室らしからぬ不思議な光景を分析した。

でもチンコのしゃぶり方なんて岐阜県出身の自分は田舎のイモっ子で彼氏なんて出来たことなくて、名古屋に出てきてからは見た目は名古屋嬢然としてきたが、まだ名古屋巻きにする勇気はなく、そんなことだから相変わらず彼氏もできずナンパもされず、いまだに処女のままでフェラチオを教えてもらった事もなく、でも健気な私はお客さんから教えてもらおうとしている・・。僕は一人で妄想を広げ続けて店を後にした。


貰った名刺には「カオリ」と名前が書いてあった。



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