特別寄稿

生駒新地2012

文-けいす




2012年5月某日

ここには1年以上行っていない。

あの時は、ケーブルカーに乗らず、徒歩で行ったのだが、誤って山の車道から登ってしまい、歩けど歩けど辿り着かず、さらに途中で雪が降ってきたため、大変だった。

今回はもう道を知っている。しかし、五月の陽気で石段を登っているうちに汗ばんでくる。

去年と同じ旅館に入った。他の旅館にも入りたいとは思ったが、あの時の女がここが一番ましだと言っていたから、今日の女のためにもと思って。尚、開いている旅館の数は去年より減っている。

門を潜ると、出てきたのは、ばばあではなく、おばさんである。前のおばあさんはもう亡くなってしまったのだろうか。

おばさんは、私のことを怪訝そうに眺めながら、
「40くらいの子しか居ないけど、いいの?あなた、すごく若そうだし…」
「もう若くないよ」
「どんな子がいい?」
「どんな子がいるの?」

おばさんは奥に電話をしに行った。

奥から、おばさんの声が聞こえる。
「いま誰が居る?えっ、何々ちゃんも居ないの?!何々ちゃんだけ…」

おばさんの声は途絶え、戻ってきた。
「今日はお帰り。」
「えっ…」
「今1人しか居ないのだけれど、その子は絶対に勧められないから。お金の無駄よ。今女将は居ないから、あなたは来なかったことにしてあげる。お帰りなさい。どこの旅館に行っても同じだから。またいらして下さいね」

風俗で拒絶されたのは初めてだが、そこまで言うならと、帰ることにした。

しかし、わざわざ来たので、近くのマレーシア料理屋に寄ってから下山した。因みに、昔の旅館の建物を利用したジャマイカ音楽が流れるカフェもある。不思議な町である。

やはり捜査官なら、その女を買ったのであろうか。








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