その女とは京都の風俗店で出会った。特別好みというわけではなかったが、気が合ったので、事が終ってからいろいろと話をした。会話が途切れた時、女が言った。

「その指輪、いいよね」

「え?あ、これ?」

女は、僕の指についている指輪ではなく、首筋を指差している。

「女物だけど。気に入ったからココに付けてる」

僕は、サイズが合わない9号のアトラスをネックレスにつけていたのだ。

「あたし、その指輪がめっちゃ欲しくてさー、買おうと思ってんだけど。ネットオークションで買えるかな?」

「うん?まあ、偽物もあるから気をつけた方がいいよ。」

「えー、携帯でもオークションできるかなあ・・」

「じゃあ、そこの高島屋で買ったらいい・・」と言おうとして止めた。

そんなことはこの女がいちばん知っているはずだ。自分で付ける指輪を一人でブランドショップに買いに行くほど寂しい買物は無い。僕はネックレスを外すと、指輪を取って彼女に手渡した。

「あげるよ」

「え?ほんとに?」

女はびっくりした顔でこっちを見ている。

「はめてみたら?」

薬指に嵌めたらぴったりだった。彼女は一瞬嬉しそうな顔をして、

「でも、悪いし。お金払うよ。」と、今度は困った顔をした。

「いいよ、別に。俺の指には合わないし」

「いくら払えばいい?これ幾らするの?」

「いいって!」

「え、でも、悪いし。・・・あ、ちょっと待って」

女は何かを思い出してそう言うと、カラーボックスから何やら巾着を取り出し、ひっくり返した。中から銀色のリングが出てきた。

「これ、貰い物なんだけど、あたしの指に合わないの・・」

その続きの言葉は、よかったらどう?と言いたかったのだろうが、彼女なりに遠慮したのだろう。僕の顔を見ている。僕は、それを受け取ると、左手の薬指に入れてみた。ぴったりはまった。

「もらっていいの?これ欲しかったんだ」

僕は、この指輪を貰うことにした。女が客から貰ったというそのリングは、ブランド名の「G」をあしらったデザインだった。


客が贈ったリングは、このようにとんでもない方向へと流れていく。まさか男の指に付いているとは、送り主は夢にも思わないだろう。




数ヶ月後、僕は名古屋の風俗店にいた。しばらくぶりで2回目の指名をしてみた女と遊んだ。フェラで抜いてもらって、ベッドに横になりながら、ぼんやりする。隣に寝ていた女は、僕の薬指からリングを抜き取って遊び始めた。

「これ、もーらいっ」

その女の指には明らかに大きすぎる15号の指輪を自分の親指にはめて、嬉しそうにしていた。悪戯っぽく笑う女に、僕は寝ころびながら一言「あげるよ」と言葉を返した。


その女はそのあと1回だけ指名して、終わった。退店したわけではなかったが、また遊びたいと思う機会がなかったのだ。特に仲良くなったわけでもなく、連絡先も知らない。



今、あの15号のリングはあの女の指についているのだろうか。また、別の人間の指についているかもしれない。

そして、言うまでもないことだが、9号のアトラスも、そもそも僕が最初の所有者ではない。結婚でもするときに、僕の指へと帰ってくるのだろうか。



次へ