彼女とは名古屋の風俗店で知り合った。 マジックミラーで指名したのを憶えている。 店長が勧めた子を指名したのだ。 彼女は可愛かった。とても。 彫が深くて、どこかエキゾチックな香りのする顔立ちと、 鬱陶しい茶色の前髪が、僕のお気に入りのポイントだった。 その日は2月3日だった。今でもはっきり憶えている。 シャワールームで彼女から誘われて、バックから挿入れた。 僕は、ベッドの上で「好き」と言った。 彼女は、「あたしのこと気に入った?」と言って笑った。 彼女は19歳だった。 そして僕も同じように若かった。 僕は彼女が忘れられなくて、1ヵ月後に会いに行った。 やっと取れた指名は23時だった。 雑誌に毎号掲載される彼女は、沢山の指名をとる女だった。 1ヶ月ぶりに会った彼女はやっぱり綺麗だった。 「俺のこと覚えてる?」との問いに、 何も言わずに唇を重ねてきた。 僕の心は完全に落ちた。 プレイルームで60分一緒にいて、セックスして、 店が終わってから遊びに行くことになった。 どちらが言い出したわけでもなく、自然とそうなった。 僕がその日の最後の客だったから、そうなったんだと思う。 深夜の街で買い物をして、 買い物といっても、真夜中に開いてる店なんて殆どない。 彼女の行き付けの下着屋で下着を一緒に買うことになった。 白いTバックの下着を買った後は、ラーメンを食べに行った。 ラーメン屋のドアを開けると、同じように店がハネた風俗嬢が屯していた。 彼女らの視線は一斉に僕らに注がれたが、 すぐに元の雑然とした店内に戻った。 彼女らの羨ましそうな顔が印象的だった。 そういえば、僕と同じように閉店後の風俗店の前では、 出待ちをしている男が何人かいた。 仕事が終わって男が迎えに来てくれるか、 同業者と一緒にラーメン屋へ行くか、 天と地の差があるのだろう。 ネギが嫌いな彼女のドンブリのネギを取ってあげて、 お互いのドンブリが空になって、 デートは終わった。 それでも僕も彼女も、 この深夜の短いデートに満足だった。 その後は、ホテルへ行って、 一緒にお風呂に入り朝までハメ狂い、6時か7時くらいに寝た。 疲れた体で、手をつないで寝た。 その次に会ったとき、 彼女は僕のことが好きになっていた。 そして、「あたしじゃダメ?」と言いだした。 「俺はろくでもない男だよ」と言ったが、 彼女はそんなことは気にならないようだった。 「今日からあたしの彼氏ね」と笑顔で言う彼女は可愛かった。 でもお互い名前も素性も知らなかった。 下の名前と年齢と携帯番号と好きな食べ物と性感帯がお互い知っていることだった。 そして、それ以上のことは知る必要も無かったのだと思う。 それからは、たまに遊んだ。 彼女の休みは火曜日だった。 水曜日が15時出勤で、残りの日はOPEN−LASTのシフトだった。 彼女はお金持ちだった。 自分ひとりでは使い切れないお金をもっていた。 彼女は毎日迎えに来て欲しかったのだろうが、 僕はそれが出来なかった。 それから数ヵ月後、僕は人生が嫌になり、逃げようとしていた。 でも、最後の気力を振り絞って逃げないでいた。 彼女の存在があったので、 彼女が頑張る限り自分も頑張ろうと思っていた。 でももし、僕が何もかもを捨てて彼女の元に逃げていたら、 彼女は笑顔で僕を迎えてくれただろう。 そして僕の人生は大きく変わっていたはずだ。 それは向こう半年はよかったろうが、1年も持たなかったと思う。 やがて彼女とは自然消滅した。最後にセックスしたのは店の中だった。 時間がなくて店でしか会えなかった。 もはや僕に風俗嬢と付き合う資格はなかった。 彼女は、僕が最も愛した風俗嬢、いや女だったかもしれない。 でも、素性は最後までお互い知らないままだった。 以来、僕は「付き合う」という意味がわからないまま、色々な女とセックスし続けている。 |