7. 西日本/花畑・雑餉隈・春吉

サウナのリクライニングで目が覚めると10時20分だった。ずいぶん寝ていたようだ。世間が仕事始めの月曜日の朝にサウナで横になっているというのはなんとなく優越感がある。が、そこに微かな罪悪感もあるように思えた。この感覚はやがて砂時計のように、多くの優越感から多くの罪悪感へと変わっていくのだろうなと思った。そして最後は何も感じなくなって毎日決められているわけでもないのに決まったリクライニングで目を覚まして、周りを見たらだいたい同じ底辺っぽい顔触れで、誰もが無言で1日のルーチンを始める。誰かが砂時計をひっくり返してくれるまで、そこから抜け出すことが出来ない――。それを想像しかかってすぐに考えるのを辞めた。

サウナを出ると、まずウィルコムショップを探す。壊れた電話を直したいのだ。AUがあるが、1台だとバッテリーが心配だ。都会にいる間はPHSの電波が入るのでなるべく活用しておきたい。ショップを見つけると、おねえさんに壊れた電話を預けて本日のスケジュールを考えてみる。

まずは、どうしても花畑へ行きたい。どうしてもだ。その理由はこうだ。

むかし、家のトイレに置いていた裏風俗本があり、私はトイレに入るたびにそれを読んでいた。クソをするのは早い方なので読んでいる時間は1~2分しかなく、コマ切れに少しづつ読み進めていた。その本の巻頭地図には、日本列島と一緒に全国のちょんの間が書かれていて、そのうちの1つに「お花畑」というものがあった。私はずっと、「お花畑」というのは函館セキセンのように俗称だと思っていた。「まんこのお花が咲いている花畑のようなところ」みたいに読ませているのだと。最初のうちは、その巻頭地図の行けそうなところのページしか見ていなくて、北海道や沖縄は行けるわけないので詳細ページはほとんど見ないでいた。花畑もしかりである。ところが、あるトイレタイムのときに、詳細レポートページを見て、れっきとした地名であると知ってしまったのだ。ああ、そんな地名があるのだと。そして、最寄りの駅が西鉄の「花畑駅」(はなばたけ駅)なのだ。それを知ってしまった時、私はションベンが漏れそうになった。

(地名としてはハナハタみたいですが、私はずっと長い間ハナバタケだと思っていました。西鉄の駅の読み方はハナバタケです。どちらが正しいのか、どちらも正しいのか、地元の詳しい人に聞いてください。それと、ションベンが漏れてもトイレだから助かったとか三流エロ本の潜入レポートみたいな低レベルなことはこれから先も絶対に書きませんのでご安心ください)

というわけで、花畑である。行くには、西鉄という電車に乗って花畑駅で降りたらいい。実に解りやすい。解りやすいうえにずっと前から知っていることだ。博多の西鉄の駅は徒歩でいける位置にあるっぽい。じゃあ、まずは西鉄で花畑へ行って、隣の駅が久留米だから昼は久留米のラーメンか。西鉄福岡駅までは歩いて行けばいい。

今日の当面のスケジュールができた時、電話は直っていた。可愛いお姉さんだけれども、オレはこれから数年越しのブルースを感じに行くんだ。こんなところで話し込んでる場合じゃないぜとカッコつけながら西鉄の駅へ。切符を買うと電車に乗り込む。着くのは14時前くらいだろうか。

乗ったのは各駅停車。車中でザックから資料を取り出して捲る。花畑まではだいぶかかるみたいだ。井尻、雑餉隈、春日原……、駅の表示を見ていると、急遽「ざっしょのくま」で降りてみることにした。まだ時間が早いから「ざっしょ」を訪問してみてもいいかなと思ったのだ。見ていた資料によると、本ヘルがたくさん存在した土地らしい。ここで降りて2時間ほど潰せば、ちょうど夕方前に花畑の旅館に着く計算になる。もっとも、今日の目的は花畑で一発だから、ここでは見るだけだ。このへんの調整はきちんとしておかないといけない。自分の体は1つしかない。この旅は自分一人しかいないのであって代打はいない。サポートもいないのだ。

降り立った雑餉隈はしょぼい駅だった。駅から続く銀天街とかいうアーケードの商店街を歩いてみる。昔はここらに大規模な売春街があったそうだ。売春街というよりは、違法風俗店の集まりといった方が適切かもしれない。違いは、私の年代における感覚的なものだ。今風か、昔気質か、の違い。花畑が昔気質であれば、こちらはミレニアム風という事だろう。ミレニアムももう8年前の出来事だけど、この田舎町はまだミレニアムな雰囲気が残っているように思えた。あの末法思想とでもいおうか、氷河期なのに就職適齢期の若者の心は暗くはなかった。あれは、下り続ける景気の中で必然的に芽生えた、高度経済成長を作った大人たちの自負に対する抵抗や憤りすら通り越したもので、世代を超えてすべてを受け入れて今を楽しもうという釈迦の悟りのようなものだったと思う。「血の小便が出るまで働いた」と自慢する大人たちに対して、いまはチンチンしゃぶれるかどうかなんだよ。しゃぶってあげようか? 5,000円でいいよ。と笑顔でいえる。男も女も関係なく。お金貰えてハッピー、すっきりしてハッピー。みんなハッピー。

雑餉隈の違法風俗店はヘルスで最後までできるというもので、全盛期には100近い店があったという。また、価格が安くて、どの店でも1万円を切ると資料にはある。「雑餉隈流」という単語も目に付く。ババアが出てくるわけでもなく、西川口流に近い感じだったみたいだ。その後、警察の摘発により、数年前にはほとんどの店が廃業になったらしい。

歩くと、真っ白い看板のついた空き物件がそこらじゅうにあり、まだ空きになってから日が浅そうなものもある。いまにも「捕まったけど楽しかったよアハハ」という声が中から聞こえてきそうだ。

商店街は意外と長く続いており、商いをしている店が並んでいる。そのうちの1つである八百屋の軒先でザルに入ったトマトを一盛り買った。100円という信じられない値札が付いていたからだ。衝動買いというか、あまりの安さに買わないといけない気になったのだ。あとで食べよう……。

駅に戻って花畑行きの電車を待っているあいだ、この街では女を購入するのもトマトと同じ感覚だったのかもなと思った。べらぼうに安く売られていて、何も考えずに衝動的に買えるみたいな。売る方もヤケクソで開き直ってるとしか思えないみたいな。やっぱミレニアムっぽいな。あんときハンバーガー平日半額65円とか意味不明だったもんな。

雑餉隈からまた普通電車に乗り、二日市という駅で人が沢山下りて行き、そこからさらに15くらいの駅を過ぎたら花畑駅だった。駅舎は新しくて、駅前は再開発中らしく大きな更地が広がっていた。ついにやってきたという感慨。それから、昨日に引き続き2ゲーム目をそつなく落としてやるんだと、あらためて気合を入れた。マクナルで690円で昼めしをとってから、15時になったので向かうことにした。

資料の簡単なMAPを参考にして歩き回る。ケータイで得た最新情報は、玉〇・美〇・福〇・鳴〇。という旅館名。丸になって伏せられているが、看板さえあれば解るだろう。とうぜん、看板はあると思う。旅館なのだから。1時間ほど歩き回った末に、ついにそれを発見した。

たぶん、ここだろう。自分で旅館に入って女将と交渉するという難易度の高めのプレイ手順だ。いくらかの逡巡のあと、私は少しの勇気と多大なる好奇心の後押しをもって1軒の旅館の扉を開けてみたのだった。

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およそ1時間後、私はザックから取り出したトマトを食っていた。道端でトマトを3つ食って、それでもまだ残っている。食いきれなかったので残りは捨てた。

それから花畑駅の1つ福岡よりの久留米駅まで歩いて、ラーメン屋を覗いてみるも、駅前のラーメン屋はあんまりうまそうでもなかったので辞めておく。久留米から博多行の電車に乗ることにした。

2ゲーム目は、これまたあっさりクリアできた。魂が震えるような美しい女が出てきた。出会ってからたった20分しか一緒にいないのに、記憶に深く刻まれてしまった。いい女だったら記憶には残るが、だから何だと言えば別に何もない。若かった頃のように女と寝ることが勲章になるのではなく、売春街を経験したことが勲章になる、そういった次元だ。それこそが金メダルを目指す次元なのだ。しかし、仲居のババアはクソだった。3回もゴムつけろと言われた。絶対ファイルに書いてやる。

久留米駅から乗った帰りの電車であるが、私はまたしても雑餉隈で降りることにした。急遽プレイもすることにしたのだ。花畑がうまくいったので、雑餉隈でも寄り道をして思い出を作ってみたい。ざっしょの勲章も欲しいしな。

数時間前に歩いた街は、すっかり暗くなっている。目星をつけた店へ。これは3ゲーム目だけれどオマケだから、なんでもいい。失敗してもいい。気楽な気持ちで、通り沿いにあった1軒の看板が灯った店を訪ねてみることにしたのだった。

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雑餉隈駅から、再び西鉄に乗って博多へ帰ることにした。さらに今夜は春吉の非合法な風俗を調べる。スペルマ残量はないが気力的にはまだいける。この流れで次のゲームも今日中にいくべきだ。

博多へ着くと、とりあえずラーメン。通いなれたラーメン屋で1,160円使う。これでもう5回目のラーメンだよ。

食い終わったら春吉へ。詳しい場所はしらないが、大きい川と小さい川が合流する地点が春吉らしい。住所として存在するようなので、とりあえず行けば解るだろう。

国体道路から大きい川の左岸を南に向かってどんどん歩いて行くと、道が路地のようになってきて、やがてラブホやビジネス旅館が立ち並ぶゾーンに辿り着いた。細い道ではあるが、中洲方面へ抜ける道として機能しているらしく、多くの人が歩きなれた風に速足で通り過ぎていく。

みたところ売春施設はない。それでもラブホや古びたビジネス旅館があるから、このあたりだと思い、川の合流地点の大きな橋のところまで出てくると、「春吉」と書かれた道路標識を見つけた。やっぱりここだ。どうしてここが売春ゾーンになっているのだろう。あの抜け道があとから出来たのだろうか。

よくよく注意してみると、通りゆく人に混じって、あきらかに挙動がおかしい女が幾人も見られた。これはやり手ではないか?

通行人を装って行き来しながら様子をうかがうと、間違いなさそうだ。やり手というか、商品のようだ。直引きしているのだろうか。ここらにある旅館が「ちょんの間」なのかと思っていたが、どうも箱と商品は限りなく別々であるように見える。

いったん離れて、周辺を歩いてみることにした。大きな橋の両サイドにラブホ街あり、東側にはポン引きがいる。これはポン引きで間違いがない。西側には小さな公園があり、ここには女が立っている。立ちんぼに見える。

棲み分けが出来ているのだろうか。橋の東と西で行き来はなさそうな感じ。いや、橋の上は目立ちすぎるから両サイドに集まっているだけなのかもしれないけれど。

西側の両側2車線の幹線道路に出てみる。この道路が西側の境界線のようだ。北に向かって歩いてみると、またしても怪しい女がウロウロしている。何気に通り過ぎるが、声はかからない。でも立ちんぼだと思う。クオリティ的には寝られないこともない。

春吉の全体図は、まず東側のラブホ群にポン引きを介する一発屋。西側のラブホ群はビジネス旅館も混在しており、ポン引きを介さない立ちんぼによる自由恋愛。うち1軒のビジネス旅館は1派が独占してなのか、グルなのか、ちょんの間風に商売している。そこに属さないものは橋の西詰から西側の幹線道路沿いで客を引く立ちんぼになっている。

東詰めの集団も、分類すれば一発屋とは言え、大阪梅田の一発屋のように、立ちんぼ連中を束ねる棟梁がいるだけではなかろうか。やって来る女は立ちんぼとして直接買った方が安く、場合によっては立ちんぼとして通用しない容姿の物体を宛がわれるリスクすらあるという目も当てられない結果になるやつだ。

中洲のデルタゾーンに入ることが出来ない底辺が必然的に橋のたもとに集まって、思い思いに個人商売を始めた感じだ。あるいはデルタで売れなくなったらここに立つことになるのかもしれない。私はそんな風に思った。

ポン引きから買っても、ろくな結果にはならないだろう。ちょんの間風のは、見た目はブルージーではあるが、プレイに至る過程はずいぶんとシステマチックな感じだ。どうかな。ちょっとロマンが不足している。

クオリティ的には立ちんぼが一番良いが、立ちんぼを買うのは最終手段だから今日買うわけにはいかない。雨も降りそうなので、今日は下見で明日を本番ということにして、また来ることにした。どうせ明日も同じサウナで泊まるはずだから。本日は既にざっしょと花畑で2つ取っているから焦る必要はない。

帰り路でパラついてきた小雨はやがて土砂降りになり、急いでマクナルへ避難する。やまないので昨日買った傘をさして歩いた。花畑で仲居のクソババアから帰り際に「傘をわすれるな」と言われたが、こんな大雨になるなんて思ってなかった。傘をさしていても濡れてくる。クソ大雨じゃないか。でも6月の雨はいい。冷たくないから。雷もなってきた。なんて楽しい。深夜2時。そのまま昨日のサウナへ入った。


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