2011年9月×日、長官より緊急指令が下りた

指令:キタで女を物色しろ

早速、捜査官が現場へ向かった。
なお、以下のファイルはすべてノンフィクションであることに留意されたい


キタというのは大阪市の梅田近辺のことだ。大阪市にはキタとミナミという2つの繁華街があり、ミナミは竹内力みたいなノリで、キタは黒柳哲子みたいな感じだ。

キタの街は地下街が発達しているので、地上より地下の方が人通りが多い。ハイセンスなファッション施設もあれば、北新地の方へ行くとモダンな造りの広々とした地下道もある。駅前の4つの巨大ビルの地下には2層にわたって闇市時代から続く飲み屋の末裔やら怪しげな店が軒を連ねている。これらの地下施設はすべて繋がってアリの巣のようになっており、大人の洞窟探検が出来る仕組みになっている。

 2009年、大阪駅工事中のころ。地上世界の巻き返しなるか。

その地下道をひたすら東の方へ歩いてくると、泉の広場という噴水広場で終点になる。ここからは地上に出るしかなくなる。



この泉の広場は、その筋の人なら有名なスポット。テレクラ全盛の時代、ここは大阪証券取引所と並ぶ著名な取引所だった。大阪で仲介業者を入れずに女の取引をする人間であれば、「泉の広場」「あべちか」「歌舞伎座前」あたりは誰でも知っていたのではなかろうか。

「あべちか」や「歌舞伎座前」が現物取引中心であったのに対し、「泉の広場」は先物取引中心だった。まずはテレクラで女を引っ掛ける。そして、アポイントメントをとって品定めするのが泉の広場ということになるのだ。

ここを根城にテレクラで男を物色する援交常連の女が4人程いて、どれもマンカス以下のクオリティだった。私はここで彼女らの生態をよく観察していた。毎日、毎日。



いつのころか、数台あった緑色の公衆電話が撤去された。携帯電話が普及したからという理由もあろうが、あからさまにテレクラや2ショットに電話をする女が1時間も2時間も公衆電話を占拠しているのだから、行政側が動いたのかもしれない。

女は出勤時には(出勤と言えるのかわからないが、私は出勤と呼びたい)ラフな格好で着ており、挨拶をしたり今日の情報交換などをする。きっと、何本付いたか、コール数がどうとか、そういった話をしているのだろう。よくスーパーのビニール袋から靴を出して履き替えたりしていた。本人はスニーカーからサンダルに履き換えたらお洒落になったと錯覚しているのだろうが、ただの汚いサンダルババアにしか見えない。

ゆっくりと歩く女。彼女らはテレクラと並行して立ちんぼもしており、公衆電話が設置された柱にもたれながら噴水を眺めていると、決まって接近されるのだ。いいかげん、私が買いに来ているのではないと気付けばいいものを、「おにいちゃん」とか「どう?」とか声をかけてくるのだ。この世のものとは思えない恐ろしく愚劣な笑顔を見せながら。


客に媚を売る彼女らの表情は魔物だった。妊娠したのか、日に日に腹が大きくなっていく女が一人おり、その女の笑顔が最も・・・。






やがて彼女らは消えていった。一人、消え、また一人消え、最後まで残っていた女は、1年か2年くらい前に・・見かけたのが最後だろうか。もっとも、高クオリティと言ってもマンカスをなんとか越えてティッシュカスくらいのレベルだったが。



テレクラが出会い系サイトに移行した現在でも、周辺には援交女が出没する。

階段沿いに女が立っている時もある。勇気を出して1回だけ立っている女なのかもしれない。もしかしたら唯の待ち合わせの女なのかもしれない。声をかけてみないとわからないが、私のレーダーはそれが身体を売りたい女であると判別していた。待ち合わせかどうかは見たらわかる。




夜の11時に歩いてみた。私のポケットの中には1万円札が2枚入っている。

5つある出口の1つから地上へあがり、雑然とした歩道を5m進むと、コンビニ前にポッチャリした20歳くらいの黒髪の女が立っている。

その女に、薄くなった髪を6:4分けにしたメガネのおっさんがアタックしている。

私はさり気なく接近して聞き耳を立てる。

おっさんは躊躇うそぶりを見せず何かを聞いてる。女は困ったような顔で、何も言わずに唇を少しだけあけて、首を横にぶんぶん振る。

いったん諦めたおっさんはその場を離れるが、30秒後、再びアタックする。

「遊びに行く?」

脂ぎった頬を不気味に動かして、その先っちょに付いた唇から発せられた台詞がはっきり聞こえた。

だが、無情にも首を横に振る女。

未練がましく振り返りながら、立ち止まりながら去っていくおっさん。




  

再開発の進まない一等地
小便くさい高架下
無料案内所の跡地
無数の立て看板


気持ちのいいものは何もない。


路地に入る。




コンビニの脇の路地に座っている女がいる。黒くて長い髪、たいして可愛くもないが、随分若く見える。いったい何歳だろう。

私は聞きたくなった。

「昔、その場所には金髪の外人が座ってたんだよ。知ってるか?」


続く


 







捜査報告書:そういうことだ



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